MANAGEMENT64新スタジアム元年、広島の人たちの情熱が最高の舞台をつくった。今シーズンの明治安田J1リーグのホームゲーム入場者数は全19試合で計486,579人。これまでクラブ最多記録だった1994年の378,195人を大幅に更新した。1試合平均でも25,609人を記録し、初優勝した2012年の17,721人を大きく上回った。ミヒャエル スキッベ監督体制3年目のチームは、毎試合ほぼ満員のスタジアムで紫の大声援を受けて激動の優勝争いを演じ、最後まで緊張感のあるシーズンとなった。集客力には理由がある。まずはJリーグ屈指の好立地にあること。全J1クラブの本拠地を調べたという森重部長は、「場所があるところではなく、価値があるところ、つまり建てたいところに建てた。それが広島の一番のところだと思います」と言う。広島市中心部にできたEピースは、目抜き通りの本通り商店街や繁華街の流川が徒歩圏内にあり、路面電車、バス、JRといった公共交通機関でのアクセスも充実している。近くには広島城や原爆ドーム、美術館、商業施設、イベント広場などさまざまなスポットがそろい、8月にはスタジアムの隣に芝生広場や飲食店などがオープンして「ひろしまスタジアムパーク」が完成。周辺との回遊性も高くなり、街に新たなにぎわいをもたらしている。サッカー専用スタジアムになって観戦体験が格段と向上したのも大きな要因だ。観客席とピッチの距離が近く、選手のプレーを間近で見られる臨場感は大きな魅力。国立競技場と同じ規模の大型ビジョンや最新の音響設備などを駆使した演出で観客を楽しませる工夫が凝らされている。また、バラエティ豊かな43席種を用意し、キッズルームやセンサリールームも完備。独自開発した一般座席や試合映像を映すスクリーンが多数設置されたコンコースなど観戦時の快適性にもこだわり、多様な人が多彩なスタイルで楽しめる環境となった。「イメージしていたのは、シンプルな考え方で『人が行きたくなるところをつくる』ということです。でも、その『行きたくなるところ』というのは、年齢や時代によって変わるものなので、いろんなことを提案してつくっていかないといけません。まずはサッカーの興行で人を集めること。そして、このスタジアムを大きな箱として、約28,500の座席や大きなビジョンといったリソースを使えば、アイデア次第でいろんなことができると思っています」観戦環境の設計はアメリカのスタジアムを参考にした。例として挙げるのはミネソタ・ユナイテッドFCのアリアンツ・フィールドで、最大収容数24,474人のサッカー専用スタジアムだ。「ヨーロッパだとサッカーが好きで応援する人が多いですが、アメリカではエンターテインメント要素が非常に強くなっています。一番はファンエンゲージメントのところで、ピッチの距離がすごく近いのと、音響効果と演出効果がエンタメ要素を強くしているので、そういったところを参考にしてスタジアムの中に落とし込まれています」広島は夏のナイトゲームに「全員参加型のシン・ナイトスポーツエンターテインメント」と銘打った『超熱狂NIGHT FES』を開催。試合前後やハーフタイムに光と音の演出でライブのような空間をつくり、炎や花火も織り交ぜたショーで観客を盛り上げた。照明が落とされた中、ホームサポーターたちは紫のペンライトを振って演出に参加し、アウェイサポーターもそれぞれのクラブカラーのペンライトを持って楽しむ姿があった。こうした非日常感の演出が新たなファンを呼んでいる。街の新シンボル、エディオンピースウイング広島を語る-街を紫に染めたスタジアム普段は通勤や通学で使う路面電車が試合日になると紫に彩られていく。サンフレッチェ広島のレプリカユニフォームを着たサポーターたちが向かうのは、広島市の中心部にできたエディオンピースウイング広島(Eピース)。街はもう紫に染まっている。新スタジアムができて生まれた新たな光景だ。「スタジアムが街なかにできて、試合がある日は街に紫のユニフォームがあふれて、街の中にサッカーが溶け込んできている。これはサンフレッチェの大きな貢献度だと思っています」そう話すのは、サンフレッチェ広島スタジアムビジネス部の森重圭史部長だ。長年勤めてきた株式会社エディオンからの出向で、新スタジアムの開業約1年前に指定管理者であるサンフレッチェ広島に赴任。前職で「蔦屋家電」などのプロジェクトに携わった経験を生かし、主に「どうやって試合のない日をマネタイズするか」、「どうやってスタジアムの価値を地域と連携しながら上げていくか」というミッションに日々取り組んでいる。
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