J.LEAGUE TECHNICAL REPORT 2023 SUMMER
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■■■■■■■■■■■■■■■■■■■寺 門 「カタールワールドカップが終わった後、吉田麻也が『ブスケッツ(スペイン代表)は、ここにパスを出されたら嫌だなって思うところを常に見ていて、それをケアしなければならない。身体的にも心理的にもすごく消耗した』と言っていました。ハーランドのプレーの連続性の話もそうですが、シティはパスの出し手も常にそこを見ながら、隙あらば相手の嫌なところを突くということをチーム全体が共有しています。実際にフィジカルデータで見えていない部分も含めた意識の差が、横浜FMとシティの違いかもしれません」片 桐 「今のシティは、様々な戦術を生み出す世界でも類を見ないチームですが、その戦術を可能にするのは個人の戦術能力と技術の高さです。選手の能力が高ければ高いほど、多くの戦術を実行できますから、ハイレベルな戦術に加えて個人の違いとは何かということを多くの人が感じたと思います。選手と差があると感じました。海外の選手は、相手を背負った状態やプレッシャーがかかった状態でも、いい位置にスパッとボールを置くことができ、次のプレーへの動作の無駄がありません。以前、私たちが分析して報告してきた日本のパススピードの遅さについては、近年大きな改善が見られています。その上で、トップレベルの選手の前線での動き、動き直し、連続性、個々の技術の高さの部分は、まだまだ足りない。今回の3試合で個々の選手の質の高さを間近に見ることができたことは有意義でした」――― 逆に、横浜FMや川崎Fが通用した部分はどこにありましたか?寺 門 「横浜FMは善戦しましたし、シティが厳しいマンツーマンプレスを行った中で、そこを剥がしてゴールに向かう姿勢を見せました。局面でしっかり向かう意思を持っていれば、ボールを奪えたし、ゴールに向かう姿勢も見えました。川崎Fも強度の高いバイエルンの守備に対して、前もって準備をして個人で外す、チームとして相手を外すことができていました。その意味では、日本人も自分たちのやるべきことをはっきりとさせていれば、世界レベルの強度の相手に対しても、判断速くアジャストできるし、相手を上回れるものを持っていることを再認識できました。こうした強度の高い相手と戦うことで、Jリーガーの能力が引き出されることには大きな可能性を感じました。Jリーグのクラブに求めていくことも大切ですが、育成のカテゴリーで高い強度でのプレーの大切さを伝えていくことが大事になると思います」――― シティ、バイエルンという世界のトップクラブを見た上で、あらためて世界と日本の差はどこにあるのでしょうか? それを可視化する方法、その差を縮めていくためのアプローチについて、みなさんの意見を聞かせてください。育成年代で海外遠征に行くと、最初は相手にぶつかれなかった選手が、最後にはぶつかって勝ってくるというケースが少なくありません。しかし、その基準を持って帰国すると、日本にはそのような基準のインテンシティがないために元に戻ってしまう、ということを繰り返すことになります。日本人の能力は間違いなく高いですし、今回の試合でも海外のトップクラブ相手に十分に魅力的なサッカーができた。個々の選手の技術の――― 「意思を持った技術」の「意思」というのは何を指しますか?寺 門 「単純にボールを奪うではなくて、奪った先に何を見るかです。どこに矢印を引くかが大事で、奪った先でどのように攻撃を仕掛けるか、どういうふうな奪い方をしてどこへ走るのが一番いいのか。単純に目の前の局面だけではなく、その先に繋げるためにどうボールを受けるか、守備をしているところからどうやってゴールを奪うのかをイメージしながら守備をするか。そうした目的を持ったプレーをする意思です」寺 門 「『意思を持った技術』という意味では、今の世界と日本の違いは相手にいかに脅威を与えられるかだと考えています。攻撃では先ほどのハーランドのように、危険なエリアに入るアクションを起こして相手を嫌がらせる、怖がらせるということを繰り返しやる必要があります。個人でもグループでも、相手に脅威を与える攻撃の回数を増やすことが大事だと思います。逆に守備面でも、個人としてグループとして、相手の脅威を削ぎ続けることが大切です。自分の中のキーワードは脅威を与えられるか、削ぎ取れるか、というところをテーマにして代表をサポートできればと思います」中 下 「実際、それができているシーンもあったと思います。シティ戦では横浜FMが2-0で上回っている時間帯がありました。それは相手のフィジカルが上がり切っていない時期だからこそ起きたことかもしれませんが、横浜FMがそのまま勝利する可能性もあった試合でした。世界相手にも上回っていた部分、強みとして出ていた部分にも光を当てて、Jリーグも日本代表も伸ばしていけたらいいですね。アンデルソン ロペスの先制ゴールの前にボールを奪ったシーン、松原健がゴールを決めた2点目などは、グリーリッシュが守備をサボったことが要因とはいえ、あのようなスプリントで大きな脅威を与えられた点は良かったのではないでしょうか」越 智 「私も可視化という部分では、松原の得点は今後の強化を見ていく上でいいシーンだったと感じています。本人も試合後のコメントで『グリーリッシュ選手がついてこないと思ったので』と話していましたが、寺門が言っていた奪った先を意識した守備、次に起こることを意識したアクションは、世界と戦っていく上でとても重要です。45分、90分の中で日本が上回ることができる部分をどのように可視化するか。これは、我々に課された課題でもあります。私がテクニカルスタッフとして帯同しているU-22代表の大岩剛監督は、『シームレス』というキーワードを掲げています。それは奪った先を意識した守備や、奪われることを予測したポジショニング、これまで4局面と言われていた部分を分けて考えるのではなく、その繋がりを意識して頭も体も戦術的にも技術的にも90分やり続ける。今回の3試合を見て、選手たちが100%、90分間やり続けられるようなアプローチをサポートしていくことの重要性をあらためて感じました」高さと個人戦術がマッチして、意思を持ってプレーした時には、相手を上回ることができるということを示したわけです。これからは国内でもそういった機会をどんどん増やし、それを育成からやっていくことが大切でしょう。ワールドカップという世界一を決める大会を通じて掲げた基準を育成から発信して、みんなで作っていくこと。それがこれからの日本サッカーのために必要です。多くの選手、指導者が世界に目を向けてやっていますから、我々は彼らに役立つデータを発信していきたいと考えています」これから突き詰めていくべきは「意思を持った技術」

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