J.LEAGUE TECHNICAL REPORT 2023 SUMMER
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 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■保持率は約2倍、シュート数では約3倍の差をつけられたものの、川崎フロンターレもゴールに迫るシーンはあった。だからこそ、両者に顕著な違いとして現れたのは、チャンスクリエイトの質よりもむしろ、「安定性が担保されていたか」、つまり「チャンスを作り続ける用意ができていたか」だと言える。トランジションを想定していなければ、保持はすればするだけリスクとなってしまう。中央に厚みを残しながら保持時からできる限り均等にスペースを埋めておけば、サイドに偏っている時と比べて、誰も守っていないスペースに展開され、相手にフリーを作られる確率を大きく減らすことができる。よって「安定性」は「ゲーム支配力」とも言い換えられ、安定性を考える上では「ポジションバランスが確保されていたか」「ポジションバランスを回復する時間を作ろうとしていたか」などが重要である。まずは、ポジションバランスの確保がどれくらいなされていたのかを両チームの比較によって検討してみたい。図1に示したのは5レーン、6ゾーンの30個にピッチを区切った中で、保持時にどのゾーンに何秒ボールがあったかを表している。フィジカルパートと同じ計算式(25ページ参照)で保持時間による不均一をなくすために、両チームが90分保持したと仮定した場合の数値となっている。川崎Fの右端、左端の2レーンのボールの滞在時間が、特に敵陣において非常に長いことが読み取れる。実際に試合中も、川崎Fの選手がサイドに数的優位を形成しにかかるシーンが散見され、ボールがサイドから脱出できないこともあった。何より問題なのは、そうして空けた中央や逆のハーフスペースをカウンタールートにそのまま転用されやすいということである。川崎Fの面々がFCバイエルン・ミュンヘンと比較してボールを中心に集まる傾向にあることは別角度のデータからも明らかだ。次の図2はクロス時のPA内の味方の人数を表している。図2を見ると明らかなように、PA内にいる人数がバイエルンに比べて0.3人、ゴール前で決定機を創出できるスペースにいる人数に至っては0.7人少ないことがわかる。中央からサイドに関わる人数が増えたがために、目的地から人がいなくなってしまう傾向にあるとも、中にポジションを取り直す時間を稼ぐことなくクロスを放り込んでしまっているとも考えられる。そのどちらの要因が支配的であったにせよ、ポジションバランスはあまり良くないことがデータから読み取れる。文 高口英成、松尾勇吾、大西諒(東京大学ア式蹴球部)データ監修 データスタジアム目的地から人がいなくなってしまうポジションバランスに課題キャリーと遊びのパスに比例するポジションバランスの回復時間次に時間の確保がなされていたかを比較してみよう。図3、図4は[攻 撃]クロス時のPA中央平均人数■■■■■■■■■■■■■■■■222..6666 vvsss 333..3337777 vvvvssss 1117777キャリー数KAWASAKI FRONTALE vs FC BAYERN MUNICH求められるのは、全局面の適応力課題は「保持時の支配力」と「非保持時のブロック守備」

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