J.LEAGUE TECHNICAL REPORT 2023 SUMMER
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バイエルン川崎F ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■川崎F■■バイエルンミドルサード裏抜け数とトップスピード平均裏抜け数(回)トップスピード裏抜け時の方向転換角度アタッキングサード(km/h)27.423.6 60度未満27.2%160114120度以上15.6%60度未満40.6%120度以上21.4%60〜120度未満51.4%逆にバイエルンは距離を詰めれば5回に2回はボール奪取が可能となっており、J1リーグ2〜7月平均と比較しても顕著な数字を残している。印象的なデータは図4からも読み取れ、ミドルサードやアタッキングサードでは、実に1m以上も選手に空間的余裕の差が生まれていることがわかる。ここから考えられる仮説として、「トップスピードまで加速した状態からの減速力・停止力・方向転換力」が欧州のトップと比べて不足しているというものがある。コーディネーション能力の不足によって剥がされやすくなったり、それを怖がってそもそも距離を詰め切れなくなったりしているのだろうと考えられる。また、コンタクト時の守備成功率に関しては、川崎Fは7月のJ1リーグ戦での平均では35%近くを記録している。よってこの試合でJ1リーグ平均と比較しても低い23%という成功率にとどまっているのは、川崎FのコンタクトスキルがJリーグのチームの中でも特別低いからではなく、相手がバイエルンだったからと言えそうだ。すなわち、距離を詰めても剥がそうとしたりショートパスを繋いだりしようとするバイエルンと対照的に、距離さえ詰め切れれば比較的容易にロングボールを蹴る傾向がJリーグにあるのだと推測できる。逆説的には、バイエルンのようにリスクを顧みず保持にこだわるチームが少ないJリーグの現状が「減速力・停止力・方向転換力」をさほど向上させなくてもプレスが成功する、というやや歪んだ現象を引き起こしているのかもしれない。相手の陣形を間延びさせる工夫が足りなかった最後にオフ・ザ・ボールの動きに関するデータを示す。図5は裏へのアクション数を表している。試合中の裏抜けの総数を見ると、少なくない差が生まれている。実際、試合中にバイエルンの選手、特にウイングの選手が何度も裏抜けを試みるのと対照的に、川崎Fの選手のアクションは量・質ともに不足していた。さらに注目したいのはトップスピード(裏抜けを記録した選手の平均)の差と方向転換の角度である。スピードに関しては実に4km/hの差があることがわかり、方向については角度が大きくなるにつれてより差が開いていることが見て取れる。川崎Fの選手の裏抜けはどれも比較的直線的に長い距離を走るものが多かったのに対して、バイエルンの選手が短い距離を斜めに抜けようとしていた試合の状況を如実に反映していると言えそうだ。直線的なスプリントでは相手を振り切ることが難しく、それゆえ中・長距離の中での駆け引きを余儀なくされる反面、120度以上の角度変化であればDFにとっても対応しづらくなる。逆に考えればそのように距離やタイミングを絞っているからこそ、ピンポイントで27.4km/hもの高出力が可能になっていると推測できる。また局面別に見ていくと、ハイプレスをかけられた時の裏へのアクションの数では川崎Fがバイエルンに大きく差をつけられており、相手の陣形を間延びさせる工夫が足りなかったとも受け取れる。実際プレス回避の成功率はバイエルンが60%に対して川崎Fは52%にとどまったが、一因として裏へのアクション数の少なさは挙げられそうである。図4 パスを受けた時の直近相手選手距離図5 裏へのアクション数(90分換算)60〜120度未満43.8%■■■■■■KAWASAKI FRONTALE vs FC BAYERN MUNICH川崎Fバイエルン5.93m7.01m113.64.17m5.57m159.8111144 vvvsss 1660000 裏抜け数(90分換算)オフ・ザ・ボールの動きで

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