Jリーグの試合観戦に訪れるスタジアム来場者は、2019年シーズンには1,140万人を記録し、J1の平均来場者数は1993年のJリーグ創設後初めて2万人を突破した。このスタジアム来場者の中には、ホームクラブ側のファン・サポーターだけではなく、アウェイ側のファン・サポーターも存在する。もちろんクラブ経営の大きな基盤となっているのは、クラブを支えるホームタウンのファン・サポーターである。一方で、遠方から応援に訪れるアウェイ側のクラブのファン・サポーターが当該ホームタウンにもたらす移動、宿泊、食事、観光といった活動に伴う経済効果や、そのファン・サポーターが地域を知り、好きになることによるポジティブな効果も軽視できない。現状、Jリーグでは、入場料収入はスタジアムへの来場者がホーム側・アウェイ側のいずれを応援しているかに関係なく、主催者であるホーム側のクラブに全てが帰属する仕組みとなっている。従って、アウェイ側のクラブがその試合に地元のファン・サポーターの観戦を働きかけるようなインセンティブは収入の面では働きづらい。そもそも、Jリーグではこれまで、スタジアム来場者の構成要素として、いずれのクラブを応援するために訪れたファン・サポーターであるかを正確に集計できる術もなかった。この点、2017年より共通会員IDサービスである「JリーグID」が整備され、2019年11月現在で、登録ID数が150万件を超えてきたように、ファン・サポーターの属性情報などを統一的に把握するための仕組みづくりは着々と進展している。この仕組みを通じて、スタジアム来場者をIDと結びつけていくことができれば、近い将来、来場者をより詳細に、ホーム側・アウェイ側と区別していくことが可能となるはずである。そうなればゆくゆくは、ファン・サポーターをどれだけアウェイの試合に送客できたかどうかという実績により、自クラブに帰属する入場料収入や配分金などの計算に反映させることができれば、自クラブのホームゲームの枠にとどまらないJリーグ全体での集客促進が可能になるのではないだろうか。また、試合の前後に、ファン・サポーター同士の交流の場を設けたり、対戦相手側のホームタウンを訪れたファン・サポーターがその地域の名所を観光したり、地域のグルメを堪能できるような仕掛けをさらに促進していくことができれば、ファン・サポーターにとっては、試合の応援以外にも、その地域を訪れる楽しみや魅力が増すであろうし、ひいては、地域の活性化に寄与するものと考えられる。一方で、アウェイ観戦は、ファン・サポーターに金銭的・時間的な負担を強いるため、一様な施策だけでは普及が難しく、どのようにこれを喚起していくかも考えなければならない。昨今、消費者のマインドは、「モノ」から体験型の「コト」へと移ろいだが、シェア文化が進行し「コト」がさほど珍しくなくなってしまったため、これからは「トキ」や「イミ」の要素が消費行動に影響を与えてくると言われている。「トキ」は、そこにいなければ味わえない瞬間を、同じ志向を持った仲間と一緒に楽しむ消費であり、非再現性・参加性・貢献性の3つの共通項がある。Jリーグのアウェイ観戦は、一度しかないライブの試合を、地元のサポーターたちと一緒に、応援してチームを勝利に導く行為であり、「トキ」の要素は十分に備えている。では、「イミ」の要素はどうであろうか。「イミ」は、役に立つものよりも意味があるものを選択するというもので、歴史や芸術的なセンスに裏付けられたアートの側面や、人や社会環境に配慮したものを自発的に選択し消費するといった倫理的・道徳的な側面がある。Jリーグでは「シャレン!」という旗印のもとに社会貢献の活動を発展させようとしており、単にサッカーをやっているだけではなく、社会の課題解決に直結する活動も積極的に実施している。この一連の活動をアウェイ観戦にも組み込み、「イミ」消費への足掛かりとして考えてみてはどうだろうか。また、これは、Jリーグの提唱しているシャレンにとっても意義のあることだ。社会課題を本気で治癒させようと思ったら、一度のイベントだけで終わらせるのではなく、一定程度継続性をもって繰り返すことができるかどうかが鍵となる。その点、Jリーグは4年に一度ではなく、毎年開催されるものであり、アウェイ観客を迎え入れる機会が年間最低でも17回(J1)もある。それだけ、繰り返し人と人の交流が生まれ、文化・社会を考える機会が醸成されるのであれば、課題先進国の日本においてまれに見る有望な課題解決装置になり得るかもしれない。このような大義をもって、アウェイ観戦を捉えて、発展させてみてはいかがであろうか。アウェイ観戦を通じた地域活性化のムーブメントをCOMMENTSDeloitte Tohmatsu’s EYE83
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