2019
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Jクラブは地域密着を合言葉に、地元住民や地方自治体との関係を積み重ね、地域と共に27年間の歴史を刻んできた。しかし、Jリーグと共に歩んできたのは地域だけではなく、後ろから支え続けてくれた企業の存在も忘れてはならない。その年数は、Jリーグ発足前も含めると、50年を超える企業もある。この絶え間なく続いてきた企業の貢献に報いるため、JリーグおよびJクラブは、これまで企業が投資してきた資本を回収する一つの方法としての「出口」を真剣に検討する必要はないだろうか。また、新しくJリーグに参入しようとしている企業にとっても、投資の「出口」は必要である。企業の投資意思決定においては通常、回収可能性が課題とされるケースが多い。これまでは、それを広告宣伝やCSR、自社事業とのシナジーといったロジックで社内や株主の合意を取り付けてきたが、事業そのものの採算性や投資期間については曖昧にしてきたのが現実ではないだろうか。さらに、クラブ持ち分を売却したり、メインスポンサーを交代したりする際の多くの場合において、負のイメージが世に喧伝されてしまうケースが多く、レピュテーションを気にする企業はなかなか売却、交代に踏み切れないといった日本スポーツ界固有の事情もある。このように、投資に対する成果も売却、交代時期も曖昧な「出口」の見えない投資に対して、今後も企業が積極的に投資してくれるかどうかは不確かであると言わざるを得ない。この先、より多くの企業に興味を寄せ、積極的に関与してもらうためには、JリーグおよびJクラブは、企業投資において求められる合理性について今一度認識を改め、計画的な「出口」をパートナー企業と模索していく必要がある。他方で、現実を踏まえると、スポーツ投資の流動性を確保しつつ、リーグ全体を繁栄させることは、そう簡単なことではない。取引時の価値評価の手法はどうするのか、参入企業の適格性をどう評価するのか、資本市場の競争原理によりクラブ間に格差が生まれた場合にどのように是正するのかといったさまざまな課題が顕在化してくる。特に、適格性の評価は、単なる財政状態だけではなく、ホームタウンに根差して、ホームタウンと長期的な関係性を構築していける意思と能力を持った企業であるかを見極めなければならないため、判断は一様ではない。投資の流動性を確保することは成長のダイナミズムをもたらすが、荒廃をもたらすこともある諸刃の剣となるため、不安は拭えないが、まずは、来る日に向けて潜在的な課題を整理し、さまざまな論点を俎上に載せておくことが重要である。そのうえで、今クラブにできることは、これまでどおり地域とのつながりを強化し、どの企業がオーナーやメインスポンサーとなっても揺れることなく立っていられる事業の基盤をつくることである。安定した事業強化があれば、競技成績に関係なくクラブ価値を一定に保つことができ、投資家がクラブに投資した際の価値は最低限維持できる可能性が高いからである。また、リーグとしても、長く貢献してきた企業の殿堂入りや新規の投資に対する優遇措置の設計、リーグ全体の価値を毀損する取引への対抗措置、最終的には上場の是非やそのサポートといった、各種規制・体制の見直しを図る必要がある。加えて、何よりも、メディアとの連携を図り、クラブ持ち分の売却やメインスポンサーの交代に対してのポジティブな空気をつくり、新規投資に対する心理的なハードルを下げることが重要である。欧州各国のリーグを見ると、次々とオーナーやメインスポンサーが変わり、その新しいオーナーやスポンサーから新たな投資が生み出される好循環を実現させている。もちろん良い結果だけではなく、クラブやファンにとって悪い影響を与えてしまった例もあるため、手放しで新しいパートナーの参入を奨励するわけではないが、失敗例も含め、フットボール先進国では、それが経験として積み上がり、次なる成長に向けての土台を築いているように見える。歴史や文化の面で違いはあるが、その欧州に追いつき追い越すためには、Jリーグも次のステージへの覚悟を決め、流動性の高いリーグへシフトチェンジすることで、多種多様なパートナー企業と次々と新しい価値を生み出すイノベーティブな世界へ踏み出してほしい。スポーツ投資に出口をCOMMENTSDeloitte Tohmatsu’s EYE81

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