うことはできません。やはり根源的な価値であるフットボールとエンターテインメントの「両輪」でファン・サポーターの方に楽しんでいただくことを忘れてはいけないですよね。実際にファン・サポーターにJリーグにハマった理由を聞いてみると、多くの人がフットボールから滲み出てくる「歓喜や一体感」だとおっしゃっていました。永井:全く同感です。イベントも重要ですが、あちこちでイベントをやりすぎてしまうと、案内が多くなってしまうため、お客様にとってわかりにくく間違ったことを伝えてしまう確率も上がってしまうことも気をつけています。いくら良い試合をしても、そうした少しのマイナスで、最悪な印象しか残らなくなってしまうのです。川崎:例えば、レディースデーといったイベントをしても、喜んでいただけるベースが用意できていないのに、女性に多くご来場いただいても満足してもらえません。マーケティング上はイベントなどで山場をつくることも重要ですが、当然ながら受け入れるベースができているかは、意思決定時に常に問うようにしています。■ リーグ全体策としてデジタルマーケティングに注力していることについて川崎:マーケティングデータベースやJリーグIDには、二つの意味があると思います。ひとつ目は、ごく短期の話で、1試合の数字を積み上げる施策が簡単にできるようになったということ。色々と考えながら施策を打てるようになりました。ふたつ目は、中長期を見据えてお客様とコミュニケーションがとれるようになったことです。サッカー観戦は一般の人にとって、1年に数回観れば多い方なので、顧客成長という意味では複数年にわたって追っていく必要があります。その期間のデータを踏まえながら、お客様とコミュニケーションできるようになったことが大きいです。永井:マリノスにとって、JリーグIDを入れて良かったことは、離脱率が可視化できたことでした。去年1回来場された方のうち、翌年には来場されていない方が多いという数字が見えてくると、その離脱の要因を仮説立て、お客様に聞いたりしながら一個一個つぶしていくということができるようになったのは大きいですね。川崎:常にデジタルが万能というわけではなくて、他の施策と合わせて改善をしないと意味がないと思います。■ 他に今、気になっている課題などはありますか。川崎:スタジアムの外でのファンづくりをどこまでできるかは今後の課題です。海外のサッカークラブが、スタジアムの外や国外にも多くのファンを抱えている、あの状態に早く到達したいですね。スタジアムにはまだ一度も行ったことがないけれど「FC東京って何かカッコいい、面白そう、いつか見てみたい」と思うファンがいて、ゆくゆくはスタジアムに来るかどうか関係なく深いエンゲージメントを持ってくださる方も増やしたいです。まずはスタジアムを常に満員に近い状況にしたいですが、将来的にはスタジアムで観ることを前提とした戦略だけではダメで、ブランディングなどの空中戦が大切になります。今後は、そういったところにもクラブとしてチャレンジしていく必要があると思っています。■ 最後にリーグに対し、クラブの集客に貢献するために何をしてほしいですか。永井:リーグ全体としても、まずは不満要素の解消を愚直にやって、それにまつわるナレッジの共有をリーグが先導してくれると大変ありがたいです。また、先ほど川崎さんのお話にもありましたが、ライト層がどう感じているかをもっと正確に知りたいですね。リーグに覆面調査などをやってもらえると嬉しいです。試合日はどうしてもクラブは運営に入ってしまうのでどのクラブも同じ悩みを持っているのではないでしょうか。2019年の明治安田生命J1リーグにおいて、J1昇格クラブを除くと平均入場者数が前年比で+10%以上増加したクラブは5クラブあった。▶ 入場者数前年比+5,222人+4,223人+2,952人横浜F・マリノスガンバ大阪名古屋グランパスFC東京セレッソ大阪124%118%112%+5,109人+2,708人+1,687人J1平均119%114%109%前年比(%)前年比(人)前年比(%)前年比(人)MANAGEMENT STRATEGYファンづくり67
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