3vol.271 25 Apr. 2019Project DNAで実現したのが、育成で実績を持つ海外の指導者招へいだ。サッカーの母国といわれるイングランドからテリー ウェストリー、アダム レイムズの両氏が、それぞれテクニカルダイレクター・コンサルタント、フットボール企画戦略ダイレクターとして、Jリーグ、Jクラブの指導者養成に携わることになった。 ウェストリー氏は指導歴37年のベテラン。イングランドでも選手・スタッフ育成の第一人者と目され、ウェストハム・ユナイテッドなどトップチームの監督経験もある。イングランドは17年にU-20とU-17のFIFAワールドカップ、U-19 EURO(欧州選手権)で優勝し、育成が一躍脚光を浴びた。その礎となったのがプレミアリーグによる「エリート・プレーヤー・パフォーマンス・プラン」(EPPP)導入という育成改革で、同氏はその設計や発動に関わった。また、監査システム構築でも前述のダブルパス社と協働しており、Jリーグでも継続性が担保されることになる。 一方、レイムズ氏はオフザピッチの仕組みづくりに定評があり、プレミアリーグの諮問委員会やワーキンググループの一員として同リーグのクラブ監査に関するコンセプトの構築などに関与。ウェストハムでアカデミー運営に携わった当時は、運営戦略やブランド化によって、クラブに多大な利益をもたらした。優れたアカデミー監査結果が、表彰されたこともある。 さる2月13日に行われたメディアブリーフィングの席上、ウェストリー氏は「私たち二人がこのプロジェクトに関わりたいと思ったのは、Jリーグが育成で改革をもたらしたい、30年のビジョンに向けて発展したいという情熱を原、黒田の両氏の話から感じ取ったから」とプロジェクト参画のきっかけを述べ、レイムズ氏も「プロジェクトはとてもエキサイティングで、このタイミングで関われることは光栄」と話した。 両氏が特に焦点を当てるのが指導者の育成。「世界トップで活躍する選手を数多く輩出するリーグとなるためには、世界トップクラスの指導者を養成するのも大事」とウェストリー氏。二人はアカデミー・リーダーシップ・チームのメンバーとなり、そこでビジョンとストラテジーを明確化し、大きな方向性の意思決定に関与する。その決定事項が前述のワーキング・グループに受け渡されて、実際に発動するという流れ。さらに「Jリーグ55クラブのアカデミーダイレクターとしっかり意見を交換しながら取り組んでいきたい」と同氏は話す。 日本サッカーを意識して3年になるというウェストリー氏は、これまでの来日でも育成年代の試合や練習に足を運び、クラブの実行委員やアカデミーダイレクターと話す機会を持った。その印象から「日本でも世界で活躍できるような選手を輩出することは可能」と言う。 近年、若い選手が高額で移籍するケースが目立っている。2018FIFAワールドカップロシアで優勝したフランスのキリアン・エムバペは、18歳でASモナコからパリ・サンジェルマン(共にフランス)へ加入した際の移籍金が推定約225億5000万円。ことし1月にも、アルフォンソ・デイビスという国際的には無名の18歳が、約24億円といわれる移籍金でバンクーバー・ホワイトキャップス(カナダ)からドイツの名門バイエルン・ミュンヘンに加わった。こうした高額移籍の若手選手を「日本でも輩出できない理由はない」というのがウェストリー氏の考え。そのためには「良い指導者、良い仕組みが必要」で、ヘッドオブコーチング(単なるコーチのリーダーではなく、アカデミー選手がプロになるまでの全てをデザインし、選手とコーチを育成するキーパーソン)養成コースの実施も念頭に置いている。 また、J1・J2・J3合同実行委員会で「こうしたプロジェクト成功の要素は二つ。さまざまなチャレンジに取り組む勇気、そして適材適所」と説明したというレイムズ氏も「アカデミー、育成への投資は必ずクラブ、アカデミーに戻ってくる」という経験に基づいた持論を述べている。 このような実績十分の専門家が「オファーを受けてくれたことに驚いている」と明かした原副理事長は、ヘッドオブコーチング養成で過去に来日した際の様子から「人柄、物事の進め方を見てきて、彼らが適任」と信頼を寄せる。そして「イングランドのまねをするのではなく、彼らの経験という力を借りながら日本の良さを生かし、日本に合った育成システムを彼らと一緒につくっていきたい」と強調した。Jリーグ新人研修は、視察したウェストリー、レイムズの両氏も「プレミアリーグにはない素晴らしい取り組み」と高く評価したという Jリーグは日本サッカー協会(JFA)と共に15年からJFA/Jリーグ協働プログラム(JJP)を実施し、育成に関する短期的および長期的な課題の改善に向けた土台づくりを行ってきた。JJPは昨年で予定された4年間を終了し、ことしは新たに「Project DNA(Developing Natural Abilities)」を立ち上げた。DNAは通常、遺伝子の意味で使われるが、ここでは選手や指導者が持つさまざまな資質を紡ぎ、世界レベルの選手や指導者を輩出したいという意味を込めている。 諸施策については、原 博実Jリーグ副理事長、黒田本部長らのアカデミー・リーダーシップ・チームが大きな方向性の意思決定を行い、ビジョン&ストラテジー、人材育成、クラブサポート、ライセンス、ゲーム、キャリア教育を担うワーキング・グループに落とし込む。アカデミー・リーダーシップ・チームは、昨年までフットボール検討部会に付随していたアカデミー分科会が、ことしは同検討部会に並ぶ位置づけで選手育成について検討する場となった。後述する海外からの指導者、Jクラブの社長、ゼネラルマネージャー、アカデミーダイレクター、JFA技術委員会スタッフがメンバーとなるほか、大学や高校の関係者にも参加を呼び掛ける予定。 昨年までJJPの一環として行われてきたベルギーのダブルパス社による「フットパス」で、主に指導者養成、育成環境整備への評価が成されてきた。その検証の上に立ち、成果を受け継ぐのがProject DNAである。つまりは「監査システムを内製化し、自分たちで日本らしい、日本人のための育成を加速する」(原副理事長)取り組み。同副理事長は「本格的に日本の育成を変えていきたい。日本から良い選手がどんどん育つという環境を、アカデミー改革によってつくりたい」と力を込める。日本の良さを生かし、日本に合ったシステムをプロジェクトの関与は「特権のように感じている」とウェストリー氏(右)。レイムズ氏はJリーグ関係者と「いつも情熱あふれるディスカッションをしている」ⒸJ.LEAGUE/PR
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