2018
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テクノロジー、経済、人口構成、社会が劇的に変化する中で、Jリーグが「スピード感」を持って「非連続の成長」を成し遂げるためには、どのようなエコシステムを設計する必要があるのか。そのヒントとなるものを二つ提言してみたい。ネットワーク型組織と小さな政府ヴァンラーレ八戸がJ3に昇格したことで、Jリーグは2019シーズンから55クラブとなる。ただ、これで終わりではなく、引き続き、規模の拡大が継続される可能性を有している。今後も、経営規模の大小含めさまざまなクラブが共存する中で、現代の速くて破壊的な変化に対応していくためには、ネットワーク型のエコシステムを構築する必要があるのではないだろうか。現在、多くの企業では、従来の階層型の組織形態からネットワーク型やエコシステムを軸とした新たな組織へ再設計することで、目まぐるしい環境変化に対応しようとしている。それは、市場環境が予測不可能で非連続なものになってしまったため、単なる効率性の追求だけでは不十分で、スピード・俊敏さ・変化への適応力が求められているからに他ならない。そのため、これまで階層的に配置されてきた権限はできるだけ下の階層に委譲し、個々の単位で完結できるようにすることで環境変化への順応性を高めている。また、それらが有機的なネットワークでつながっている状態をつくることで、システム全体への還元を促し、エコシステム全体の進化を確保しようとしている。Jリーグには、独立した55のクラブとそれらを結ぶリーグ組織がある。ネットワーク型組織の原型が既にそこにあるのではないだろうか。他方で、Jリーグが置かれている環境や直面している課題は一般の企業が対峙しているものよりも複雑である。その中で、Jリーグは、公平性や最大公約数を全体の共通解とし、これまではリーグがプラットフォーマーとしての役割を果たすことでJクラブを支える仕組みをつくってきたが、今後は、徐々にクラブに権限を委譲し、クラブ単位で激しい環境変化に向き合うことができるようにする必要があるのかもしれない。もちろん、小さな政府になればなるほど、これまでのように公平性や最大公約数を全体の共通解とすることは難しくなってしまうが、時代のスピードはそれ以上のものではないだろうか。戦略的・計画的なイノベーター企業のミッションステートメントの中では「Innovate」「Technology」「Solution」「Create」などの言葉が良く使われるが、その中でも最も多いのは「Innovate」である。このイノベーションというものの重要性は日増しに強く認識されて、Jリーグでも事業強化の戦略の中でその必要性が認識されている。では、どのように非連続にイノベーションを起こすことができるのか。科学者のSteven Johnsonは、「イノベーションは人々の動機づけからではなく、アイデアが結びつく環境づくりから生まれる」と述べている。つまり、イノベーションはインスピレーションの産物というよりも、綿密な計画を立て、時間をかけて実行されるものであり、着想を得て生み出すという単純な2段階のプロセスでも、偶発的なものでもないということである。今、われわれに求められているのは、飛躍的進化を引き起こす技術に真剣に向き合い、戦略的にイノベーションを起こすアプローチを取り入れる仕組みを組織に内包するということである。デロイトの調査によるとフォーチュン100社のうち67社は少なくとも一つのイノベーションセンターを保有していることがわかった。つまり、企業はその装置のなかで、イノベーションそれ自体を効率的で生産的なプロセスに変えることで対応しようとしている。同じように、Jリーグもイノベーションとの付き合い方を見直す必要があるのではないだろうか。これまで、イノベーションを探してきて、それをニーズにマッチングすることをしていたが、それだけでは不十分であり、エコシステムの内部に戦略的にイノベーションを非連続に創造する装置を設置する必要がある。その機能をリーグ運営機構としてのJリーグが担っていくことが困難なのであれば、イノベーションに特化した独立組織や、産学官との連携機構をつくってはどうだろうか。時代を生き抜く新しいエコシステム8503COMMENTSDeloitte Tohmatsu’s Eye

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