2018
86/94

Jリーグが開幕して、25周年。この間に日本全国津々浦々にJクラブが登場し、今や54を数えるまでになったクラブは各地域の主役としてさまざまな活動を展開している。また、Jリーグと共に日本サッカーはレベルアップが進み、日本代表は当たり前のようにFIFAワールドカップに出場するようになった。Jリーグは押しも押されぬ日本スポーツ界の主役になったといえるだろう。しかし、経営の側面から見ると、例えばJ1クラブで売上規模は中小企業レベルであり、必ずしも盤石であるとはいえない。また、多くのクラブが積極的に取り組んでいる社会連携活動も、裏を返すと中小企業レベルの経営規模にもかかわらず、大企業並みの社会貢献を求められているともいえ、経営に負荷が掛かっている点も事実だ。今、Jリーグは、25年前に掲げた三つの理念に立ち返ろうとしているが、社会連携とフットボールの強化を両立しながらも、リーグ・クラブの双方が経営体力を高めていくためにはどうしたら良いのだろうか。その一つのヒントがファンの力の活用だ。少し古い事例であるが、米・ハーレーダビッドソンについて触れておく。1970-80年代に日本車の大攻勢を受け、経営危機に陥った同社は、コアなファンであるライダーたちの存在に着目した。彼らを「オーナーズ・グループ」として組織化してストーリーの体現者としての役割を与えることで、危機を乗り越えるだけでなく、揺るぎないブランドを確立することに成功している。その熱狂的なファンたちは、自らが購買するだけでなく、周囲に同社の魅力を伝える伝道師としての役割を担い、連鎖的に次々と仲間を増やし、間接的な売上向上にも貢献していったといわれている。翻って現代は、SNSやネットでの口コミなどで個人が体験をシェアすることが容易になっており、このような積極的に情報発信を行う熱狂的ファンの存在は一層重要度を増しているといえるだろう。また、最近ではインフルエンサーと呼ばれる影響力のある個人が増えてきたが、彼らが強く、分かりやすいメッセージを発信するためには、Jリーグや各Jクラブが、明確で一貫した価値観を構築し、理解や共感を促す努力が必要ではないだろうか。そのためにも、「Jリーグの三つの理念」と「Jクラブのフィロソフィー」をファン・サポーターと共有し、それを何度も語り合い、目指す高みを将来の伝道師たちと分かち合っていく必要がある。もちろん、これら伝道師はお客様でもあるが、一方で地域のために一緒に戦う仲間でもある。そう素直に考えることが許されるのは、Jリーグだけではないだろうか。フットボールだけではなく、社会課題の解決もJリーグの使命である以上、取り巻くステークホルダーが漠然と一致団結するだけでは到底足りず、ステークホルダーの中でも取り分け強大なエネルギーを持ったファン・サポーターの力を借りて理念の実現を加速させてほしい。お客様としてのファン・サポーター伝道師としてのファン・サポーター8403COMMENTSDeloitte Tohmatsu’s Eye

元のページ  ../index.html#86

このブックを見る