Ⅶ.参加者所感 Jリーグ スタジアムプロジェクト 欧州視察報告(2010年10月) 84 待ち列と車両動線の分離、ゲートでのチケットもぎりや手荷物検査時に観客が濡れないための屋根、入場時配布物のスムーズな配り方、転ばないための手すりや段差解消、各種イベントブースの設置スペースと動線、飲食売店の購入待ち列の並ばせ方、邪魔にならないセキュリティの配置、応援横断幕を張る位置とそこへのサポーターの支障なき進入経路、スタンド最前列に集まってくる子供対策等々、気遣いをどんどん入れてみれば、日本仕様が浮かび上がってくる。 スカイボックスやラウンジは、日本ではいわゆるVIP扱いと一からげにされがちだが、今回視察した大体のスタジアムで「VIP」、「企業」、そして「ラウンジ利用ファン」のための設備が別個に用意されていた。多数あるスカイボックスは企業が殺到して売り切れ、買い遅れた企業が空き部屋待ちをしている状況だという。また、一つ下のランクのスポンサーや、ちょっと上流な観戦を楽しみたいファンのために設けられたラウンジは、食事を楽しみ、元選手などのトークショーを聞き、試合後に一杯引っかけて語らう人々であふれていた。すぐに思われたのは、日本に同じ設備を設定したならどれだけ売れるのか、ということ。料金は、それなりにいい額に設定されている。 スカイボックスなら、まずその使い方から企業に馴染んでもらわないと駄目だろう。試合時に顧客を招待して接待する感覚、試合日以外にもピッチの見えるところで食事とミーティングを行う感覚。後者は特に、クラブだけでなくスタジアム自体にも惹かれてくれないとかなわない。「スタジアムは我が街の誇り」。ニュアンスはそれに近いかもしれない。 ファンのラウンジはまだハードルが低そうだ。ビジネスベースの組織と違い、自分の懐と相談するだけで購入を決められる。だがそれでも不安要素はある。それだけ濃いファンならば落ち着いて試合が見られればそれでいいと、指定席で十分満足しているかもしれない。それに何より、日本の試合会場ではすでに多種多様な飲食、イベントが提供されている。下手をすれば、上流ラウンジに入らないほうがいろいろなものを楽しめるかもしれない。“おもてなしの国”日本では、相当魅力的な何かを出すか、だいぶ安い料金設定にしないと、ただの指定席のほうが勝ってしまいかねない。ラウンジで仲間と語らう味に酔い、その濃厚な雰囲気の虜になってもらうまでには、長い時間がかかるかもしれない。 ただし、スカイボックスやラウンジは、時間をかければあり得るとも考えられる。ビジネス的な観点からも、浸透させるべくトライすべきではないか。規模、金額設定、サービス内容はゆくゆくバージョンアップしていくことも見据えながら、まずは現実的な形で始めてみる価値はあると思えた。 将来面や資金面でいえば、建設経緯や構造、運営にかかわることも似たところがありそうだ。 スーパーマーケットなどを備えた複合スタジアムのスタッド・ド・スイスは、クラブが困窮していたところに現れた富豪が出資して造った。複合施設にしたのは、ただスタジアムを新しくするだけでは金が回らないと踏んでのこと。試合時、スーパーは基本的に閉まっていて、複合施設を観客に堪能してもらおうという意図はない。日程の都合で開いていることもあるというが、そのときはスタジアムとスーパーで駐車場の取り合いになり問題だという。スタジアム運営者にも、スタジアムに頼るクラブにも、下手を打てばスポーツ以外の面に振り回されるリスクが付きまとう。 画期的な複合型も別に、明るい未来が開けているわけではない。かといって、このスタイルが未来のスタンダードにならないとも限らず、どちらかといえば30年経ってもうまく運営されていてほしいと思う。スタジアムが老朽化する30年後も成り立っていれば、複合型は本当のエポック・メーキングになれるのではないか。 複合化させるなら、日本らしく観客を楽しませる要素を備えたい。欧州の例を日本にそのまま持ってくるわけにはいかない。しかし将来的には、民意が動けば法律だって変えられる可能性はある。日本に合う形で、皆がより喜
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