欧州スタジアムの潮流 Jリーグ スタジアムプロジェクト 欧州視察報告(2010年1月) 81 欧州スタジアムの潮流 ◆ヨーロッパ各国においても、スタジアム事情は異なり、さまざまである。 今回、ドイツ、スイス、英国(イングランド、スコットランド)の13スタジアムを巡る機会を得て、スタジアム運営会社やホームクラブの方々から「建設に至るまでと利活用について」(建設用地確保・建設資金調達・スタジアム運営方法・スタジアム収入力向上策等)、詳細にヒアリングさせていただいた。 端的にいえることは、各国事情は異なり、ホームクラブやホームタウンの人口、風土、文化はいうまでもなく、将来的なコミュニティの課題などをしっかり勘案した上で、利活用を前提にスタジアムが建設されているということである。 ◆英国型スタジアムVS.ドイツ・スイス型スタジアム とはいえ、古くからクラブが自前のスタジアムを街の中心部に持ち、さらなる収益力向上と地域社会への密着・還元をもくろむ「英国型スタジアム」と、新たにスタジアム用地を用意し、スタジアムを中心にまちづくりに取り組む「ドイツ・スイス型スタジアム」の2種に大別でき、それぞれ特色が異なっている。このように受け止めると、日本がより学ぶべきは「ドイツ・スイス型スタジアム」といえるのかもしれない。 (ただし、英国においても新建設用地を確保して新設するスタジアムはドイツ・スイス型に近い。) ◆「スタジアム自らが収益を生み出すしくみをビルトイン」。365日稼働生活密着型スタジアムに。 欧州のスタジアムでは、メインスタンドの一角はもちろんスタンドを二層・三層構造にすることで、スタジアム内に数多くのスカイボックスを設置している。マッチデーばかりでなく日常的に企業や地域コミュニティのプレゼンテーションルームとして稼動させるため、有数のシェフを抱えるケータリングサービスも常時提供可能にしている。さらに、スイスのベルン、ザンクトガレン、バーゼルは共通してショッピングモールが併設されている。バーゼルに至っては高齢者向け高級マンションが併設されており、住民はマンションから直通のラウンジを試合当日に利用できる。「FCバーゼルのホームゲームを観戦するこどもや孫が自宅を訪ねてくれることが増え、嬉しい」という住民の生の声を聞くこともできた。家族の絆づくりにも好影響を及ぼすものになっているのである。スタジアムは競技施設という範疇を超え、地域生活に密着した機能を持ちながら、自らが収益を生み出す複合施設になっている。(結果、スタジアムが生み出す収益力を前提に、クラブはチーム強化に専念する経営スタイルもスイスでは台頭し始めている。) ◆観客席の増改築やテナントの変更を想定した「可変性の高いスタジアム建設」が一般的に! 現状は下位リーグに所属しているが、将来的には各国リーグのトップリーグへの昇格やUEFAチャンピオンズリーグへの進出を目標とするクラブとホームタウンが多く見受けられた。このようなクラブがスタジアムづくりで苦心するポイントは「現状の観客数と将来必要になる座席数のギャップ」であろう。この解決策がスタンドの増改築や座席の増設を見越したスタジアムづくりである。座席だけでなく、スカイボックスの所有者やテナントの変更を前提に「可変性の高いスタジアム建設」が一般的になっている。一度建設してしまうと仕様変更ができないスタジアムイメージを一新するものであり、日本においてもぜひ参考にしたい発想であるといえよう。 ◆「スタジアム=街のヘソ」に!~日本各地で、地域の生活空間づくりを推進・サポートしていきたい~ 日本においても、ホームタウンのグランドデザインに基づく、地域のオリジナリティあふれるスタジアムが多数新設されることを強く期待したい。そして、地域に潤いを提供する生活空間となり、地域住民とともに歩み、成長していくものになることを願ってやまない。「街のヘソ」と呼ぶにふさわしいスタジアムづくりの推進・サポート役を今後、担っていきたいと強く思う次第である。 株式会社博報堂DYスポーツマーケティング 菅原 均
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