Ⅴ‐1.レンジャーズ Jリーグ スタジアムプロジェクト 欧州視察報告(2010年10月) 49 1902年4月5日、スコットランド対イングランドの国際試合でスタンド最後部に穴があいて観客が転落。26人が死亡、517人が負傷。この事故により木造の観客席は取り壊され、17年かけて再建された。第一次大戦中、戦争功労者へのメダル授与のセレモニーの場にもなったアイブロックスは、1928年に新しいメインスタンド、レンガでできたファサードなどが整備された。 さらに1971年のセルティック戦、ロスタイムにレンジャーズがあげた同点ゴールに、早めの帰路につこうとしていた観客がスタンドに引き返し、13ゲート階段から将棋倒しで66人が死亡する大惨事が発生。この事故を契機に、英国にスタジアムの安全法が設けられた。14ゲートには、この追悼碑として、当時の主将であるジョン・グレイグ選手の銅像が建てられている。 2度にわたる悲劇を経て、1979年から一年ごとに、コップランドロード・スタンド、ブルームローン・スタンド(いずれもゴール裏)、ゴヴァン・スタンド(バック)を再建。ビル・ストラス・メインスタンドとセクターごとに改修。スタンドの角に大型スクリーンが2基。コップランドロード・スタンドの脇にメガストア、「バー72」(1972年の欧州カップ・ウィナーズ・カップ優勝から命名)を新設、638のプレミアム席など、施設の充実も図られ、エグゼクティブボックスやスイートで1試合1,200人がホスピタリティを受けている。 スーパーカジノ併設計画や新スタジアム建設プランなどもあったが、2008年1月、クラブは70,000人収容に増設し、ホテル、アウトレットを併設した £350m(490億円) の再開発計画を発表し、レンジャーズはあくまでアイブロックスにこだわることを決めた。 (3)スタジアムそのものがミュージアム ガイドのアンディ氏は、1971年の事故を反対側のスタンドで目撃していたと話す。ツアーは、大理 石のらせん階段を上がり、【ブルー・ルーム】と名付けられた貴賓室に通される。歴代の名選手や監督がタイルの壁に描かれ、伝統ある調度品、青一色の絨毯でこの上なく格調高い。この迎賓の間は、新加入選手との調印式に使われている。その隣には【監督室】。大きな机と黒電話、ステッキ。窓際に飾られた女神の像は「ミケランジェロが使っていた採石場の大理石で彫られたもの」と美術館のガイドツアーのような説明が響く。どちらの部屋も、明治時代の洋館にタイムスリップした気分になる。
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