I.はじめに Jリーグ スタジアムプロジェクト 欧州視察報告(2010年10月) 2 Ⅰ.はじめに サッカーが英国から世界中に伝播し百年を経た今日、舞台は、単なる“競技場”から“スタジアム”や“アレナ”へと進化した。「地域の人々にとって?」との問いかけに、「故郷」、「宝」、「プライド」、「シンボル」、「想い出」、「出会いの場」、「戦場」などうらやましい言葉が口から飛び出す。これから、スタジアムは一体どこに向かって進化を続けていくのか。 陸上競技用トラック、屋根のない観客席、街中から離れた立地、程遠いホーム仕様などこれまで我々が拠って立っている前提を、プロスポーツのビジネス環境として、もっと他にあり得る様々な可能性の中から選ぶことができるとしたら。そう考えれば、今回訪問した数々のスタジアムは、どこもJリーグの現状を映す鏡にほかならないと感じた。 統一から20年後の旧東独のスタジアムの復興ぶりには、リーグのディビジョンを問わず上を向く積極的な姿勢が強く感じられた。2008欧州選手権を開催したスイスの、環境に配慮し多機能複合型の次世代モデルは日本の羅針盤となろう。聖地として、長い間少しずつ改装を重ねているイングランドやスコットランドの伝統には妙に落ち着く。そして、観客もまたスタジアムの大切な構成員だと教えてくれた長谷部誠選手(VfLヴォルフスブルク)の言葉は何より新鮮だった。各訪問先で受けた感謝しきれないホスピタリティあふれる対応ぶりは、どんなに時が経とうとも決して忘れることはできないほどだ。一同、心から厚くお礼申し上げたい。 これからの地域社会の発展とともに、文化的にも経済的にも貢献していくスタジアムには、次の八策が思想や哲学として強く込められている。 一.スポーツ文化(Culture)、ためにサッカー場でなければならない。 一.地域の誇り(Identity)、ためにホームとしての有り様を貫徹しなければならない。 一.地域社会(Community)、ためにどんな人でも家族みんなが楽しめなければならない。 一.社交場(Society)、ために快適な観戦環境とホスピタリティを備えなければならない。 一.好立地(Location)、ために誰もが集う“まちなか”に近くなければならない。 一.環境(Ecology)、ために水・緑・光、公共交通を活用しなければならない。 一.経済性(Economy)、ために多機能複合型のビジネスモデルが望ましい。 一.経営の持続性(Management)、ために各分野の専門家集団が行わねばならない。 今回の視察には、新スタジアムを具体的に検討しているクラブや自治体からも参加した。希望に満ちたJリーグの未来につながる確かな予感がしている。 Jリーグ理事(団長) 傍士 銑太
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