欧州におけるサッカースタジアムの事業構造調査2008報告書
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「電機メーカーに、フットボール・クラブの経営は、わからないでしょう」と素っ気ない。いまフィリップス社は、クラブの一スポンサーで、経営面には立ち入らない。クラブにいる170人の従業員(内、チームスタッフは85人)に、フィリップス社関係者は一人もいない。 「またPSVは、自治体からの特別な支援を一切受けていない。固定資産税も、きちんと支払っている。オランダでは自治体から何らかの支援を受けるクラブが多いが、PSVは単独でやっていける」と、Verkerk氏は胸を張る。 CASE 5; Philips Stadion (Eindhoven, Netherlands), ver.6 p.3 Copyright ©Japan Professional Football League / Research Institute for Sport Business, Waseda UNIV 2008, All Rights Reserved 3 クラブが土地とスタジアムを所有 スタジアムの土地も、フィリップス社から、クラブが買い取った。建物もクラブが所有し、運営している。スタジアム付近のトレーニング施設も、クラブの所有物である。 スタジアムの改修費もPSVが負担する。2002年には、スタジアムの4つのコーナーの外壁に大改造を施し、かつ座席数も大きく増やした。これにより外壁の一部が巨大なブラインドとなり、試合のある日は観客のための風よけに、試合のない日は芝生のための通風口として機能する。 図 2:コーナーの通風口(開閉式) 改修に必要な経費は、近隣に所有していた駐車場の売却益、自己資金、および銀行借入で調達した。 Verkerk氏は言う。「1988年以降の改修だけで、170百万ユーロ(274.2億円)かけている。新しいスタジアムを建設できるほどの費用で、高いと思う。しかしPSVにとっては、クラブが生まれたこの場所にスタジアムがあることが大事なのだ」。 スタジアムは市の中心地にあるので、サッカー以外のビジネスにとっても好立地と思われる。 図 3:スタジアム外観 4 クラブの所有者 クラブは株式公開会社(NV)だが、上場していない。オランダのクラブで上場している例はないという。 NVはNaamloze Vennootschap(英語でいうとnameless partnership)の省略形。株主またはパートナーは「名前無き」「匿名の」存在で、直接知られることはない。 Verkerk氏によると「クラブの株主はある種のメンバーシップで、誰でもなれるわけでない。出資者に配当するつもりもない。すなわち利益目的のファンでなく、ファンによるファンドと呼ぶべきもの。」 「サッカーは、ビジネスである前にエモーションで、文字通り名もなき出資者たちによって支えられている」。

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