CASE 3; Amsterdam Arena, (Netherlands), ver.5 p.3 Copyright ©Japan Professional Football League / Research Institute for Sport Business, Waseda UNIV 2008, All Rights Reserved 「アレナ」。欧州における、先行事例 1 「アレナ」の衝撃 1996年8月、アムステルダム・アレナの開業はサッカー界に、驚きと賞賛をもって迎えられた。51,628人収容の巨大スタジアムが、開閉式の屋根を備え、サッカー以外のイベントにもひろく利用される。高速道路の出口に続く幹線道路が、直接スタジアムに接続する、究極のアクセス。何もかも斬新な、近未来のスタジアムとされた。 ところが実際に稼働するとすぐに、ピッチ・コンディションの悪さが、問題視された。ドーム式で日照と通風が不足するうえ、サッカー以外のイベントを頻繁に開催することが、天然芝の生育を阻害する。いつしか「アレナ」は、芝生の悪いスタジアムの代名詞になってしまった。 ホームクラブ、アヤックスの成績もふるわない。欧州を代表する名門クラブが、「アレナ」開業後の12シーズンで、リーグ優勝わずかに3回。ライバルPSVの半分にも及ばない。 それでも「アレナ」の経営は、順調だ。開業5期目に単年度黒字に転じ、そのまま7期黒字経営を連続している。英国やドイツでも、「アレナ・モデル」に追随するスタジアムが増えている。 表 1:「アレナ」の収支。4 (百万ユーロ) (億円) 収入 純利 収入 純利96-97 15 -4.3 24.2 -6.997-98 16 -0.9 25.8 -1.598-99 18 -0.6 29.0 -1.099-00 25 -0.1 40.3 -0.200-01 19 0.1 30.6 0.201-02 20 0.1 32.3 0.202-03 25 1.2 40.3 1.903-04 28 2.4 45.2 3.904-05 25 1.4 40.3 2.305-06 31 3.2 50.0 5.206-07 31 1.8 50.0 2.9 4 現地調査で入手したグラフから読み取った、およその数値 スタジアムのコンセプトは「多機能巨大アリーナ(Multi-Function Mega Arena)」。サッカーの開催回数は全体の33%、収入は65%程度という。 「アレナ」は、欧州におけるスタジアム・ビジネスの先駆者で、最も経験豊かな事例だ。 アムステルダム・アレナの建設 2 五輪招致とアヤックスと、都市開発 「アレナ」建設の主役は、アムステルダム市と、同市の名門サッカークラブ、アヤックスだ。発端は、1980年代にさかのぼる。 市は、1928年に続く2度目のオリンピック開催をめざして、1992年大会の招致に乗り出した。そのため大会のメイン・スタジアムとなる施設が必要だった。 同じ頃アヤックスは、クラブの構造改革に取り組んでおり、新スタジアムのアイデアを温めていた。アヤックスのホーム・スタジアムDe Meer Stadionは、1934年から使用している古い施設で、安全性に問題を抱えていた。5市は1983年、オリンピックとアヤックスのための新スタジアムを、郊外南西部に建設する計画をたてた。スタジアムを触媒にして都市再開発の成果を挙げようする、野心的な計画だ。 残念ながら1986年、国際オリンピック委員会(IOC)は、1992年大会をバルセロナで開催することを決定した。それでもスタジアム建設計画は前進した。オリンピックがなくても都市開発は必要で、新スタジアムは、そのための触媒になると考えられた。アヤックスは切実に、新スタジアムを必要としていた。 5 アヤックスの公式ホームページは、UEFAが2000年、全着席化を義務づけたことが決定的だったとしている
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