欧州におけるサッカースタジアムの事業構造調査Ver. 9 p. 11 Copyright ©Japan Professional Football League / Research Institute for Sport Business, Waseda UNIV 2008, All Rights Reserved 11 公共投資の効果を明示 サッカー専用スタジアム、およびそれを中核とする都市開発事業への公的資金拠出は、何をもって評価されるのか。一つの答えは「サッカーは特別と認められている」だろう。 これに加えて、今回、英国の訪問先で強調されたのは、新規雇用の創出であった。「福祉から労働へ」と標榜する英国政府の政策が、地方行政の現場にまで浸透しているものと思われる。 リコー・アリーナでは、コベントリー市の担当者が、開発事業に関する詳細な資料を用意していてくれた。それは市当局が一般向けに公表したもので、投資と成果が数字と共に、具体的に列挙されていた。資金調達のプロセス、協力した民間企業についても、克明に説明されていた。 わかりやすい情報開示は、納税者の納得感を高める効果を持つと思われる。 12 スタジアムを、収益施設に 日本のサッカー施設を、欧州水準にまで高めるため、施設をコストセンターからプロフィットセンターに大転換させることが必要だ。それが本格的に実現するためには、サッカーの社会的価値向上と、産業としてのいっそう発展が待たれるだろう。 しかし手をこまねいているわけにはいかない。日本の施設改善が遅れれば、それだけ競技力および社会的文化的価値創出において、欧州との差が開いていく。欧州の事例を参考にしながら、日本の法令、社会情勢にあった、独自の方法を工夫する余地もあるはずだ。 たとえばこれまでスタジアム建設に関わってこなかった業種、人材の参加を促すことも考えられる。欧州でもサッカークラブ、サッカーピープルだけでは、複合化した施設運営をまかなえなくなっていた。経営コンサルタント、ホテルチェーン、ケータリング会社、イベント会社などと、ある時は合弁し、ある時は人材を招聘しながら、新しいビジネスに取り組んでいる。 13 草の根の、社会スポーツ施設 今回調査は、プロサッカークラブが本拠地とする巨大スタジアムを中心に訪問したものだが、その旅程のそこここで、草の根のスポーツ施設を多く見かけた。ドイツでは都市の外縁にいくつものグラウンドがあって、それぞれに草の根スポーツクラブが活動していた。オランダでは、宿泊ホテルの隣が広大な社会スポーツ施設で、大勢の少年少女が真冬の照明灯のもと、サッカーやホッケーを楽しんでいた。英国プレストンの町で、10面ものピッチを擁する巨大な公園を見て、現地のガイドに案内を請うたが「ごく一般的な、名もない公園である」で終わってしまった。英国ではその程度の施設は、説明するまでもないのだ。 その英国はいまフットボール基金という制度を運用している。これは政府とサッカー協会とプレミアリーグ(プロリーグ)が資金を出し合って、草の根のスポーツ施設の整備と、プロサッカークラブによる社会貢献活動に投資するもの。その投資額は、毎年93.3億円(45百万ポンド)にのぼる。現地の雑誌記事によるとこの事業は、「英国政府は草の根スポーツ施設に投資する政策を持っていない。このままではドイツやフランスに、大きく後れを取ってしまう」として開始されたのだという。
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