欧州におけるサッカースタジアムの事業構造調査2008報告書
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るために、プロサッカークラブの貢献が大きいためだろう。 9.5 交通アクセスの整備が、事業化の前提 今回視察した6施設のうち、管理事業の内容が最も多様化していたのは、リコー・アリーナだった。この施設は、サッカースタジアムの外側に、半円形の大展示場を接続して、収益事業を多角化している。その結果、管理事業者の収入に占めるサッカー割合は、21%に抑えられている。また展示場の地下には本格的なカジノが入居しており、そのテナント料収入が管理会社の経営を助けているとの分析もある。 図 11:リコー・アリーナ 貸し事務所、レストラン、ファンショップは、スタジアムにおいて常時稼働する収入源となっている。一流企業の事務所や、格式高いレストランが、堂々とスタジアムに入居している。 このような事業が実現しているのは、スタジアムが、交通至便な立地を確保しているからだ。イングランドではスタジアムが、中心市街地から郊外に移転する傾向が顕著だが、道路、公共交通機関および駐車場を十分整備して、利用者の便宜を図っている。リコー・アリーナのパーク&ライド施策には、ロンドン市も注目しているという。 欧州におけるサッカースタジアムの事業構造調査Ver. 9 p. 10 Copyright ©Japan Professional Football League / Research Institute for Sport Business, Waseda UNIV 2008, All Rights Reserved 10 サッカーの社会的地位 今回いくつかの訪問先で、「サッカーは社会において、特別な存在として認められている」という説明を受けた。ここから、二つの意味を読み取ることができる。 一つはサッカーの社会的存在感の大きさだ。地域のサッカークラブが、市民の誇りであり、市民に愛される存在であるからこそ、再開発される郊外の荒れ地に、ポジティブな印象を与えることができる。施設がどんなに多機能化しても、その中心にサッカーが据えられる。すべての座席が屋根で覆われた、サッカー専用スタジアムが、当然のように整備されていく。スタジアム建設事業における公民共同が増えたとはいえ、公的補助は依然として重要だ。そしてサッカーの「特別さ」が、手厚い補助を可能にしている。 もう一つは、サッカー産業の成長と拡大が、大きな設備投資を可能にしていること。たとえばスタジアム建設資金として、25年ローンで50億円を融資した銀行は、サッカークラブが毎年の利益の中から返済しうると判断しているのだ。Jリーグのなかで、それだけの利益を見込めるクラブは、ごく僅かだろう。 但し調査事案のいくつかは、このサッカーの特別さと好況ぶりをあてにしたビジネスモデルになっており、そこに若干の脆弱性を感じた。高度に複合化され、施設の質に定評ある事例でも、管理業者の業績は、サッカーチームの成績に大きく影響されるという。従って、たとえば2部からの降格危機にあるクラブを抱えたリコー・アリーナが、今後も健全に経営されうるかどうか、なお観察する必要があるだろう。

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