Arup Sport; ver.3 p.8 Copyright ©Japan Professional Football League / Research Institute for Sport Business, Waseda UNIV 2008, All Rights Reserved 一方、ウクライナ・ドネツクのスタジアムについては、自然公園の中で建設されたことに配慮し、屋根を傾斜させることで周辺となじむよう、インパクトを抑えることに配慮している。 最近のスタジアム建築についてParrish氏は、「人々の期待がとても高まっている。ファンやサポーター、地域コミュニティにとって象徴的でかつ誇りとなるようなデザイン、コンセプトを検討することが求められている。とてもチャレンジングなことだ。」と述べた。 環境における持続可能性 表2の中でも具体的な記述が見られるように、アラップスポーツでは環境問題への対応に強い関心を払っている。 省エネ、水資源有効利用の一例として、北京国家水泳センターでは、ETFEで覆われた外観を活用した空調システム、太陽光により水を温めるシステムを備えている。その他、プールからあふれた水を再循環させるシステムや、雨水の貯蔵・再利用の設備を設けている。 多目的スタジアム・アリーナ建設の条件 「マルチファンクション(多機能・多目的)」は重要なキーワードであると語ってくれた。 「そのようなスタジアム・アリーナを建築していく上で、最初に検討されなければいけないのは施設の立地。アクセスしやすい(行きたくなるような)場所であることが重要だ。例えば、都市の中心部であれば地価が高いのがネックになるが、交通網が充実していることからアクセスしやすい。」 「次に、設計デザイン段階から、ビジネスプランニングの専門家が同じチームにいて、ディスカッションしながら作業することが大事だ。試合で使われない場合にどのようなビジネスが可能か。立地が良ければ、プランニングの自由度が高まる。レストランなどを誘致することもできるだろう。また、チームのファンだけがアクセスするのではなく、そうではない人も取り込んでいけるようなビジネスプランも考えられるだろう。」とParrish氏は語ってくれた。 コンピュータによる建築デザイン スタジアムやアリーナの設計を行なう際に、アラップスポーツでは30年前からコンピュータを利用している。3D表示による専門ソフトウェアで、これを用いることによって、正確で効率よく、通常のCADよりも早い時間で設計が可能であるとか。アリアンツ・アレナの設計に当たっては、最終的なデザイン決定に至るまで、33のデザインパターンを用意したとのことである。 このソフトでは、全ての座席から最適に観覧できるよう、最適な角度や高さなどが自動的に計算される機能も備えている。座席を1つ増減させただけでも、再度、全ての座席に最適な角度、高さとなるようオプティマイズ(最適化)されるようになっている。「このソフトを使うと、これまで考えもつかなかったようなデザインも可能だ。リサーチワークとして、完成された設計図の一部を無理に引っ張り出したりしてみると、その形状にオプティマイズされたスタジアムのデザインが作られる。」とParrish氏は語った。
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