イレブンミリオンプロジェクト欧州視察2008報告書
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Ⅲ-3.チャールトン・アスレティックFC Jリーグ イレブンミリオンプロジェクト 欧州視察報告(2008年1月実施) 38 しかし、「ザ・ヴァレイ」のスタンドは老朽化が著しく、取り壊した上での新規スタンド建設が必要だったのである。クラブはスタンド再建の建築許可を地元自治体であるグリニッジバラに願い出るが、議会は「ザ・ヴァレイ」のスタンド再建に反対し、許可を出さなかった。サポーターたちは三度立ち上がった。彼らは「ザ・ヴァレイ党」という政党を結成し、1990年に行われたグリニッジバラ議会60議席のうち58議席に候補者を立てて戦った。そして驚くべきことに、「ザ・ヴァレイ党」は15,000票(10.9%の得票率)を集め、議会に一定数の議員を送り込むことに成功した。「ザ・ヴァレイ」のスタンド再建の可否は1991年に再審議され、4月には許可が下りた。そして、1992年、チャールトン・アスレティックは「ザ・ヴァレイ」に帰還を果たしたのである。ちなみに、北側のスタンドは「ハーツ&エデュケーション」というボランティア団体からの寄付によって建築された。「ザ・ヴァレイ」拡張計画にも多くのサポーターが物心両面で参画することであろう。 これらに加え、クラブの理事会にはサポーターズディレクターという職があり、シーズンシートホルダーの互選によって選ばれている。このこともクラブとサポーターの結びつきをより強くしている。 3.地域と育成事業 育成事業はすべてチャールトン・アスレティック・コミュニティ・トラストという信託基金により運営されている。16年前から計画し4年前に設立した。現在は海外でもプログラムを展開し、有望な選手がいれば獲得して育成している。 現在は30人のフルタイムスタッフと200人のパートタイムコーチで、39に及ぶ活動を地域で行っている。国内でも有数の地域コミュニティに根ざしたクラブである。 トラスト設立後は充実した活動を行っている。行政とも連携をとり青少年をどのように犯罪から遠ざけるか、そして、技術により資格を与え地域で職を得る、また、クラブに戻り経営に参加させることなどを行っている。 トラストは海外での活動も盛んに行っている。スペインのマラガでは、マラガで語学教育とサッカーの指導を行っている。また南アフリカでもアカデミー事業を行っており、現地の警察官をサッカーコーチとして育成し、青少年を犯罪から遠ざけている。 英国王室ウィリアム王子もコミュニティ活動に参加したことがあり、トニー・ブレアが首相であった時に、チャールトンのアカデミー活動に賛同する発言をしている。ゴードン・ブラウン首相もトラストを訪問した。 このトラストの運用資金として、ホームゲーム開催時に行われる「Valley Gold」の収益金が充てられている。120ポンド(2万6,400円)の会費で年間登録するか、毎試合1ポンド(220円)でJack pot券を購入すると、その売上の50%が抽選会の賞金として還元され、残りの50%が選手を育成するための資金となる。このシステムによって、抽選にもれても「俺たちが育てた選手」という意識が登録者・購入者に生まれると思われる。賭事の国ならではの資金調達方法である。 また、地域貢献活動として、16名の選手が各地のコミュニティを訪れ、スポーツマンシップ教育などの交流を持った。選手が大使のような役割を果たしている。また、各試合で地域の子供たちを招待し、過去のスポンサー変更で使用できなくなったユニフォームを子供たちに配布した。このことはどこの国でも同じであるが、子供は将来の選手、サポーターであるからであるという考えに基づいて行われている。

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