Jリーグ欧州スタジアム視察2017
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Ⅶ.参加者所感 Jリーグ欧州スタジアム視察2017 報告書 (2017年10月28日~11月5日) 98 ましいと視察している中で感じた。今後日本でスタジアムを新設・改修するケースでも、単にスタジアムのキャパシティを大きくするのではなく、地域の人口やクラブの集客力を十分に考慮して、適正規模にしていくことが必要になるだろう。キャパシティを必要以上に大きくするよりも附帯設備を充実させることに資金を振り向けた方が顧客満足度を向上させることに寄与するように思う。 顧客満足度を向上させていくためにはスタジアム運営のノウハウが必要であると考えるが、欧州にはスポーツ施設の運営を専門に行っている民間企業があり、ノウハウが十分に蓄積できていることが分かった。それらの企業はスポーツの試合だけでなく、試合開催日以外でのイベントを招致・運営することもできるため、スタジアムの稼働率や客単価を上昇させることに寄与している。 日本にはそのような民間企業がまだ多くないため、スポーツ施設の稼働率および客単価を上げ、「稼げるスタジアム」を実現するためには、専門家チームの組成、人材育成などの検討が今後必要になってくると強く感じた。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 早稲田大学 スポーツ科学学術院 助教 舟橋 弘晃 今回のJリーグ欧州スタジアム視察を通して、建設背景や事業手法の異なるさまざまなスタジアムを調査することができ大変参考になった。視察したスタジアムを下図のとおり3軸で分類すると、改めてバラエティに富んだセレクションであったことが分かる。 スタジアムは、多様な世代が集う交流拠点や防災拠点となるためその公共性が強調されることが多いが、厳密には「純公共財」ではないため公共が一定の関与をしつつも民間領域で担える仕組みを検討すべきである。ただし、商品(試合)の供給回数に制限のあるプロサッカー興行のみでは、限られた人気チームしか事業性を確保することができない。そのため、スタジアムビジネスを成立させるためには客単価向上機能(例:VIPエリア、スカイボックス)、多目的利用促進機能(例:可動式屋根、ハイブリッド芝、可動式ピッチ)や複合機能(例:ショッピングモール、ホテル)を設えるのが経済合理的な選択となる。ポイントは、それらの機能の享受者(VIP、スポンサー企業、ファン、イベントプロモーター、開発事業者 等)への「インセンティブの設計」であると感じた。今回の視察では、どのようなインセンティブデザインが導入されているのかということを中心に視察を行った。興味深かった事例を以下にまとめる。 ■客単価向上機能のインセンティブ設計事例:エスプリ・アレナ(デュッセルドルフ) エスプリ・アレナのバックスタンド中段のビジネスラウンジ「BoConceptラウンジ」は、クラブスポンサーである北欧家具メーカーBoConceptが家具を提供し内装をコーディネートし、他のスポンサー企業やVIPに対して自社製品をPRするために活用されていた。これはスポンサー・アクティベーションの好事例であり、ビジネスラウンジをBtoBマーケティングのプラットフォームとして設えることで、スポンサー企業の(協賛でなく)投資インセンティブが働き、スカイ

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