Ⅶ.参加者所感 Jリーグ欧州スタジアム視察2017 報告書 (2017年10月28日~11月5日) 95 Ⅶ.参加者所感 独立行政法人 日本スポーツ振興センター 専門職 安田 麻衣子 本視察は、欧州における最新のスタジアムを視察・ヒアリングすることで、スタジアムが目指す姿、最新施設の潮流を把握し、将来計画に反映させることを目的として行われた視察であり、平成29年10月28日より9日間、6カ国11スタジアムの視察を行った。ドイツ、オーストリア、ハンガリー、スロバキア、フランス、オランダなど、いわゆるサッカー強豪国のサッカースタジアムを訪問し、それぞれのスタジアムにおける施設の工夫・クラブ運営の特徴などを間近で感じることができた。 まず、施設において注目した点は、視察したクラブの多くが、アカデミーを設置し、育成レベルに応じた環境を整えるため、練習ピッチを複数面所有しており、芝についても、天然芝、人工芝、ハイブリッド芝とそれぞれの用途に応じて複数設置していたことである。スタジアム内の芝生については、天然芝を継続して使用するクラブ、ハイブリッド芝を導入しているクラブ、今後 ハイブリッド芝へ変更を検討しているクラブなどさまざまであった。 日本国内のスタジアムにおいても、ハイブリッド芝の実証実験を行っていると聞いているが、天然芝の維持管理と施設の効率的な運営の両立を図る最良の選択肢のひとつとしてハイブリット芝が早晩、スタンダードとなっていくのではと感じた。私たち日本スポーツ振興センターでも、平成30年度のスポーツ振興くじ助成(グラウンド芝生化事業)では、助成対象事業の拡充としてハイブリッド芝による芝生化(新設・改設)する事業を天然芝事業として助成対象事業を拡大している。 また、施設運営面から特に印象に残っていることは、多世代をターゲットとし、特にファミリー層の観客が多かったことである。試合観戦以外でもスタジアムツアー、ミュージアム見学で子どもから高齢者まで幅広い世代の観客が来場しており、サッカーが地域社会に根付いていることを実感した。 ファンショップにあるグッズもキッズ用品が大変充実し、キッズ用品の需要が高いことからも、ファミリー層のファンを獲得することで、ひとつの世代に偏ることなく永く愛されるファンづくりの工夫を行っている。 また、子どもの観戦チケット料金を安価に設定し、ファミリーシートも設けて継続的に来場する仕組みを整えているところもあり、シーズンチケットの権利を親世代から子世代に残していくことを大切にしているなど、サッカーが人々の生活における日常であることがうかがえた。その一方で、サッカーそのものに重点を置いているクラブについては、クラブマスコットを廃止し、グッズの充実よりも、純粋にサッカーを楽しむためのサッカーイベント等を充実し、クラブ運営を行っている施設もあり、特徴が分かれていた。 スタジアム運営面については、たとえば、試合日は、公共交通機関で来場してもらうようにクラブが観客の交通費の一部を負担している事例があった。これは、公共交通機関が利用できる範囲内にスタジアムが立地している等の条件が大きく影響しているものである。 また、試合前後2時間は、ビジネスラウンジの利用が可能で、観客にとっては少しでも長い時間をスタジアムで過ごすことができること、行き帰りの混雑を緩和するための工夫として大変充実したものであった。
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