Jリーグ欧州スタジアム視察2017
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Ⅳ-4.ミュンヘン② Jリーグ欧州スタジアム視察2017 報告書 (2017年10月28日~11月5日) 56 (3)育成環境づくり FCバイエルン・ミュンヘンでは、ドイツ国内だけに限らずベルギー、フランス、オーストリア、スカンジナビア諸国等EU各国を対象に若手選手(16歳以上)のスカウト(国内の場合は14歳以上)を行う。この施設を利用する選手は、約200人(20~24人/カテゴリー×10チーム)。トレーナースタッフは、約20人程度(各カテゴリーに最低2人×10チーム)。 遠方在住の選手も多いため、地元企業と提携し、半径100km以内在住選手を対象にバス送迎 (無料)のサービスを行っている。また、敷地内に選手寮を整備し、100km以上離れている選手は、無料で入居できる。現在、28人(14~18歳)が入居している。 14歳から親元を離れ、プロを目指しサッカーに没頭する選手は、とても過酷な環境でありデリケートな心理状態でもある。そのため、メンタルケアや24時間セキュリティ管理など徹底している。また、選手はけがなどにより選手生命を絶たれるかもしれない。そこで義務教育を重視しており、教育機関3校と提携しアカデミー施設内にも教育スタッフ6人が常駐し、宿題の手伝いや若者の生活環境のケアなど、代理母の役割を担っている。選手一人一人がピッチの上で100%の力を発揮できるようにこの6人のスタッフと協力して、選手の環境づくりに注力している。 「どんな時でも100%の力を発揮することがFCバイエルン・ミュンヘンの考え方でもあるので、育成施設においてもその考え方を徹底している」とスタッフは言う。 3.所感 ドイツで3番目に大きい都市、ミュンヘン。金融・出版業が集積する人口約145万人の都市だが、世界で居住に適した都市として上位にランキングされるほど、居住環境において評価も高い都市である。 都市間競争が激化する現代において、有能人材をいかに集めるかが都市政策においても重要視されており、元ニューヨーク市長フルーム・バーグ氏も「国際級の都市を目指すなら、まずはファミリー・フレンドリー(家族に優しい)な都市を目指すべき、というのが私のかねてよりの持論です」とリー・クアン・ユー世界都市賞受賞記念講演で述べている。 サッカー界においても、高騰する移籍金や年俸の高額化が進む中で、いかに優秀な人材を集めるかが、クラブが生き残る上で重要なポイントになるといわれている。ミュンヘン市の基礎的な居住環境の高さと、FCバイエルン・ミュンヘンによる上質な育成施設環境整備。その2つがFCバイエルン・キャンパスのスタッフも自負する「最高峰の育成施設」を完成させたのだと今回の視察を通じで実感できた。何よりもスタッフが誇らしげに「ここに足りないものはない」と語る姿は、とても印象に残った。 あくまで私感に過ぎないが、健全経営で定評のクラブが新たな育成拠点への投資に打って出た当施設が、生き残りをかけた国際都市の戦略とも重なって見え、クラブ経営の重要さをあらためて気づかされたことを最後に感想としたい。 スタジアム

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