Jリーグ欧州スタジアム視察2017
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Ⅳ-3.ミュンヘン① Jリーグ欧州スタジアム視察2017 報告書 (2017年10月28日~11月5日) 50 【投資計画①】 新しいゲートの新設や駐車場からの橋を建設 投資想定額:€4,000万 (53億7,400万円) 【投資計画②】 1860ミュンヘン(もともとFCバイエルン・ミュンヘンと共にアリアンツ・アレナをホームスタジアムとしていた)が4部に降格し、2017年にアリアンツ・アレナとの使用契約を解約した関係で、これまでできなかったFCバイエルン・ミュンヘン色の強いプロジェクトを始動(例:シートをクラブカラーの赤に変更するなど) 投資想定額:€6,000万~8,000万 (80億6,100万円~ 107億4,800万円) これらの投資は、当初予想よりも早く借金返済が完了したことで可能となっているらしい。 3. 視察後の所感 アリアンツ・アレナ視察により、以下の2つの大きな示唆を得ることができた。一点目は事業スキームについて、である。 「小規模でも充実したビジネス設備」をテーマとした今回の視察の中では最も異質(規模や事業スキーム)であったといえるアリアンツ・アレナであるが、それはドイツにおいてもわが国においても最終的にはこのアリアンツ・アレナのスタイルを目指すべきということなのかもしれない。 そのスタイルとは、「そのクラブにとって最も使いやすく、収益を最大化するための」施設を作るべきという極めてシンプルなものである。 今回の視察で訪れた10あまりのスタジアムの事業形態は、スタジアムの「所有」「運営」と「クラブ」との関係もさまざまであったが、施設所有は公共団体(市や国)であったものが多かった。これはわが国でも同様である。 スタジアムを使用するクラブにとって施設使用料は「コスト」であってできるだけ低廉であることが望ましい。一方でスタジアムの所有者(もしくは運営会社)にとってクラブは「安定顧客」であり、「収入」であるから施設使用料はできるだけ高額であることが望ましい。 この最適化は、スタジアムの所有(運営者)とクラブが違う主体である限り困難である(とはいえわが国では多くの場合、「減免」という制度が採られ、クラブにとって有利となっている)。そのためスタジアム運営は基本的に「収入<支出」となりそこに公金が指定管理料として充当される構造が一般的である。 アリアンツ・アレナの場合は施設所有・運営はクラブの子会社が担当している。組織形態は違えど、「所有者=運営者=クラブ」となっており、「クラブや運営会社双方にとってのメリットの最大化が共通目的」というガバナンスが働くことになるのである。この「スタジアム・ビジネス・ガバナンス」が最終的に目指すスタイルであろう。とはいえ欧州でもこのスタイルは数多くないことは指摘しておく必要があると感じた。 大きな示唆の2つ目は、COI(Contractual Obligated Income)の重要性である。COIとは、あらかじめ契約で定められた収入(およびその期間)である。アリアンツ・アレナでは、スカイボックスやビジネスラウンジ、ネーミングライツ、そしてFCバイエルン・ミュンヘンによる施設使用料などがそれに該当する。 スタジアムビジネスの本質は実はこのCOIにあるのではないか、ということを強く感じた。当初20年返済のローンを9.5年で完済した原資がCOIであり、今後わが国においてもCOI発想のスタジアムビジネス、スタジアム計画に変わっていく必要があるのではないだろうか。

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