Jリーグ欧州スタジアム視察2017
30/106

Ⅲ-1.トルナバ Jリーグ欧州スタジアム視察2017 報告書 (2017年10月28日~11月5日) 30 City Arena社の収入源を整理すると、スカイボックス収入、ビジネスラウンジのチケット収入、一般チケット収入、サッカー以外のイベント収入である。チケット収入はクラブと折半であり、今シーズンは平均入場者数が約4,700人と落ち込んでいるため不調である。ビジネスラウンジやスカイボックスの利用も当初計画の収入を達成していない。ピッチレベルでのイベントの開催頻度を増やすために、ハイブリッド芝「SIS Glass」の導入を検討している。したがって、本スタジアムは、収益の見込めるショッピングモールやホテルの売上と連結決算で利益計上を目指すモデルだと思われる。現状、ネーミングライツ収入や行政による損失補てんはない。 (2)ショッピングモール シティ・アレナの収益性の拠り所となっているのが、複合されているショッピングモールである。約100の小売店に加え、映画館、フードコート、ボウリング場、カジノ、フィットネスクラブ、ベッティングオフィスが入っており、スタジアムと同日にオープンした。運営は、City Arena Plus社が行っている。 ファミリーでの来館をターゲットとしており、例えば試合日であれば、父親はスタジアムに、母親と子どもはショッピングをし、試合後にモールで再合流し食事をするというような過ごし方を目論んでいる。ただし、ショッピングモールからスタジアムへ入場するには、一度外に出る必要があるため、両施設の行き来がシームレスな設計にはなっていない。これは、試合日のクラウディングアウト効果(サッカーファンによる混雑を嫌ってショッピングモールへの来館を避けること)を意識しての判断ともみてとれる。 (3)ホテル・アレナ ホテル・アレナは、スタジアムに併設した小型のホテルである。2017年5月にオープンした。スタンダードルームが18室、スタジアムが一望できる角部屋(アパートメント)が3室、ワンフロア貸し切りジャグジー付きのVIPスイートが1室となっている。それぞれ、一泊の宿泊代金は€70(9,405円)、€90(12,091円)、€300(40,305円)である。その他、2つの会議室を備えている。運営は、City Arena Hotel社が行っている。 (4)まとめ シティ・アレナは、同じ躯体にスタジアム、ショッピングモール、ホテルを有する世界的に希少な事例である。スタジアムの全面的な改築に伴い、行政との連携のもとディベロッパーが主導したショッピングモールとの複合再開発プロジェクトとみることができる。このモデルを可能にしているのは、開発業者とクラブの兼任オーナーの存在であるが、不動産価値のある公有地を低価格で売却することで民間投資を呼び込み、老朽化が目立ったスタジアムを複合施設として全面的に改築するというスキームは、わが国においても適応できるものと思われる。行政としては、最小限の公共投資で、複合的な機能が組み合わさった市民の交流施設の整備を達成したことになる。 ショッピングモール内 ホテル・アレナの外観

元のページ  ../index.html#30

このブックを見る