Jリーグ欧州スタジアム視察2017
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おわりに Jリーグ欧州スタジアム視察2017 報告書 (2017年10月28日~11月5日) 104 おわりに ~彼らの常識は、その先を走る~ 「ウィーンに行って、王宮も見ず、音楽にも触れず、スタジアムに行ってきた」 「なんで ? そんな特別な施設があるの ?」 「地元クラブが自前で建てた新設スタジアム(民有施設)に、市が建設費の37%を助成した。地下鉄駅から250mの至近にあるが、敷地があまり広くなく育成用グラウンドを隣に造ったため、VIP玄関がゴール裏に設けられている。玄関の上階にはクラブ事務所もある。スタジアムの『住所』は、オーストリア代表でクラブの伝説的ディフェンダーである選手の名前。その選手は引退後に建築家になり、新スタジアムの前身である旧施設を設計した・・・」 欧州の最新スタジアムが持つ「個性」は、ニッポンの常識では考えられない。 「国の施設を民間が経営。命名権を売り、地元クラブがホームとして使用」(ブダペスト) 「人口7万人弱の小都市中心部に商業施設、ホテル等を複合したコンパクトシティ」(トルナバ) 「ゼロタッチ、エスカレーター、インナーコンコース、移動式ピッチ+開閉式屋根」(アーネム)等々。 日本でも「スポーツ市場の拡大」「スタジアム&アリーナ改革」が提言され、国内各地で既存施設からの脱却に向けて舵が切られている。スタジアムは、その国のスポーツの社会的地位を映し出すもの。これまでの「体育施設」とは別次元の発想が求められている。 雨が降ったら濡れてしまう観客席は1席もない。2部の小さなクラブであっても、必ず「広いビジネスラウンジ」と「個室のスカイボックス」を備え、美味しいグルメ、スムーズに上階のラウンジへ移動できるエスカレーター、広い厨房といったサービスに欠かせない付帯設備を整えて、地域の人びとに快適な空間を提供している。これならお金を出す。 各スタジアムは独自のロゴマークを持ち、施設自体をブランド化。ホームクラブのグッズとは別に「スタジアムグッズ」でも収益を上げる。ネーミングライツは着工時から付けられ、その命名権料も建設資金に充てる。スタジアムだけではない。祝日に訪問したボルドーのクラブハウス(お城)でのランチは極上の美味。隣の部屋ではセミナーが行われており、「誰もが魅せられる憧れの施設」だった。 「Jリーグ欧州スタジアム視察」は、最新施設を視察、ヒアリングすることで、目指す姿、潮流を共有し、ホームスタジアムの将来計画に反映させることを目的としている。3回目となる今回は、建設に関わる民間事業者(設計、施工、コンサル等)にも先進のスタジアムに触れて共有していただいた。スポーツの世界に身を置く私たちが、どのような「豊かなスポーツ文化」を思い描いているのか、建設業界等のみなさんにもお分かりいただけたと思う。

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