2016 winter
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95Jリーグのこれから最後にができたのだろうか?という視点こそ、今私たちが大切にしなければいけないことです。 DAZNと結んだ大型の放映権契約も大きなニュースでした。この契約によって私たちにもたらされた一番大きな変化は、クラブに対し「投資」するスタイルの経営を促せるようになったことです。クラブへの配分金が大幅に増加しただけでなく、J1の4位までを対象にした理念強化配分金、投資意欲を維持するための降格チームへの救済金を設定するなど、クラブによってはこれまでの「身の丈経営」スタイルから、より魅力的な選手や指導者の獲得に動きやすい環境がそろいました。この変化の波に乗って、魅力的なチームづくりへの投資を恐れないクラブが1つ、2つと現れてくれば、Jリーグの景色も大きく変わるのではないかと期待しています。 先日、新潟県のとある病院に勤める医師の方が病院内でJリーグのパブリックビューイングを開催したと聞きました。「不安」「苦痛」「孤独」といったイメージになりがちな病院を少しでも明るくしていこうとの試みだそうです。病床500ほどの大きな病院で当初は3人ほどしか参加者希望者がいなかったようですが、今では多くの患者さんと一緒にアルビレックス新潟を応援しているそうです。私はこの話にボランティアをして下さっている医師の方の強烈なオーナーシップを感じました。彼らは、Jリーグの試合を与えられる楽しみとしてではなく、自分のものとして捉えて行動に移しているのです。私は、スポーツに関わる多くの人々の心の中にこのようなオーナーシップが芽生えていくことが、何より重要なことだと考えています。強い主体性や当事者意識をもったスポーツ経営人材の育成を目的に2015年に立ち上げた「Jリーグヒューマンキャピタル」ですが、本年度、独立法人化してサッカー界に限らず、スポーツ界全般の経営人材の育成を目指す「スポーツヒューマンキャピタル」へと進化を遂げました。またJリーグ内部も同じように意識変革を加速しています。来年からは、Jリーグの6つの関連会社を統合し、これまで縦割り構造にあった組織をひとつにします。Jリーグのために働く一人ひとりが、細分化されたミッションに埋没することなく一つのチームとしてオーナーシップを持ってクラブや社会に貢献していこうと考えています。 「オーナーシップ」の話があったように、Jリーグは全ての方に開かれた公共財です。大きな転換点にあるJリーグでは、さまざまな意見、議論が絶え間なく行われていますが、この議論こそが私たちの大きな財産だと私は考えます。このJ.LEAGUE PUB Reportがその議論のきっかけ、助けになれば幸いです。最後にはなりましたが、2016シーズンJリーグをご支援いただいた全ての皆さまに心より御礼申し上げます。2017シーズン、またスタジアムでお会いしましょう。ドイツの哲学者、ヘーゲルが唱えた「弁証法」のなかに「事物のらせん的発展の法則」という言葉が出てきます。なんだか難しい言葉ですが、これは物事が進歩・発展するときは、あたかもらせん階段を上るような形になるという考え方で、上から見ると同じところを回り続けているように感じられても、実は一段ずつ上昇している状態のことを指します。Jリーグの組織内では、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)の4段階に「ミスを恐れない」を意味するMを加えた「PDMCA」という言葉を使っていますが、失敗を恐れずチャレンジしていくこの循環こそJリーグにおけるらせん階段のような存在だと私は考えています。 2ステージ制で開幕したJリーグは、その後J1において5回の大会方式の変更を経て、来シーズンからは、再び通年のリーグ戦で優勝を決めることになりました。本リポートでも2ステージ+チャンピオンシップ制を振り返るページを設け検証を行いましたが、今回のわずか2年での大会方式の変更は、見方によってはただの「逆戻り」のように見えるかもしれません。ただ、このプロセスによって、私たちはらせん階段を何段上がること

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